日本企業とベトナム人材の間で起こりやすい認識差とは

日本企業とベトナム人材の間で起こりやすい認識差を業務資料で確認する担当者のイラスト

ベトナム人材と仕事をする中で、「説明した内容と結果が違う」「分かりましたと言われたのに、期待した行動につながっていない」と感じることがあります。

ただし、こうしたズレを日本語力や国民性だけで説明するのは適切ではありません。業務経験、職位、教育方法、指示の出し方、確認・報告のルールなど、複数の要因が関係しています。

私はベトナムで約10年、現地法人の経営や製造現場の管理に携わり、日本側とベトナム側の間で起こる認識差を実務の中で見てきました。その多くは、どちらか一方の能力や姿勢ではなく、双方が前提としている仕事の進め方が共有されていないことから生じていました。

この記事では、日本企業とベトナム人材の間で起こりやすい認識差を、個人や文化の問題として決めつけず、指示、確認、報告、責任範囲、文書表現の観点から整理します。あわせて、現場でズレを減らすための具体的な確認方法を紹介します。

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認識差の原因を3つに分けて考える

説明と結果が食い違ったときは、すぐに「日本語が通じなかった」「本人の意識が低い」と判断せず、原因を分けて確認する必要があります。

実務上の認識差は、大きく次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

  1. 言葉の理解に関する問題
    語彙、文法、専門用語、長い説明などを正確に理解できていない状態
  2. 業務知識や経験に関する問題
    作業の目的、品質基準、前後工程、例外時の処置などをまだ知らない状態
  3. 仕事の進め方に関する問題
    確認する時点、報告の基準、責任範囲、優先順位などについて、双方の前提が異なる状態

たとえば、「異常があればすぐ報告してください」という指示が実行されなかった場合でも、原因は一つとは限りません。

  • 「異常」に該当する状態を理解できていなかった
  • どの程度なら報告が必要か判断できなかった
  • 自分で解決してから報告するものだと考えていた
  • 誰へ、どの方法で報告するか決まっていなかった

原因を切り分けずに日本語教育だけを強化しても、報告基準や業務ルールが曖昧なままでは、同じ問題が繰り返される可能性があります。

認識差を減らすには、言葉、業務知識、仕事の進め方のどこに不足があるのかを確認し、それぞれに合った対策を取ることが重要です。

よく起こる認識差

日本企業とベトナム人材の間では、日々のやり取りの中で小さな認識差が積み重なることがあります。

ここでは、現場や社内業務で特に起こりやすい例を整理します。

1. 指示された内容と、期待されている行動の範囲が違う

日本側では、明示した指示に加えて、過去の経験や周囲の状況から必要な行動を補ってほしいと考えることがあります。

たとえば、管理者が次のように伝えたとします。

製品Aの在庫を確認して、足りなければ対応してください。

日本側は、この一言に次のような行動まで含まれていると考えているかもしれません。

  • 現在庫と受注残を確認する
  • 不足数と不足する時期を計算する
  • 生産予定を確認する
  • 間に合わない場合は関係部署へ連絡する
  • 対応結果を管理者へ報告する

一方、指示を受けた側は、「現在庫を数え、不足していることを確認するところまで」が依頼された仕事だと受け取る可能性があります。

この場合、問題は指示を聞かなかったことではありません。日本側が期待していた行動範囲と、実際に伝えた内容が一致していないことにあります。

指示を出す際は、少なくとも次の点を明確にします。

  • 確認だけでよいのか、判断や対応まで求めるのか
  • どこまで本人の判断で進めてよいのか
  • 他部署への連絡や調整も担当範囲に含むのか
  • 途中報告と完了報告が必要か
  • 期限と優先順位は何か

「確認してください」「対応してください」という言葉だけでは、求める行動範囲は伝わりません。指示した作業と、期待する結果の間にある工程を明示することが重要です。

2. 確認・報告が必要な時点が共有されていない

日本側では、「問題があれば早めに報告してほしい」と考えていても、何を問題と判断し、どの時点で報告するのかを具体的に伝えていないことがあります。

たとえば、納期に遅れる可能性が出たとき、管理者は「遅れそうだと分かった時点」で報告してほしいと考えているかもしれません。

一方、担当者は「自分で調整しても間に合わないことが確定した時点」や、「実際に納期へ遅れた時点」で報告するものだと考えている場合があります。

この違いがあると、管理者は「もっと早く報告してほしかった」と感じ、担当者は「まだ解決できると思っていた」と感じます。

報告ルールを決める際は、「早めに」「問題があれば」といった表現だけでなく、報告が必要になる条件を明確にします。

  • 予定より何時間・何日遅れる見込みなら報告するか
  • 品質、数量、設備、安全のどの異常を報告対象とするか
  • 自分で判断してよい範囲と、上司の確認が必要な範囲
  • 問題が確定してからではなく、可能性が出た時点で報告するのか
  • 誰へ、どの方法で、何を添えて報告するか

実際の業務と社内ルールに合わせて、たとえば次のように具体化します。以下は説明用の例です。

納期に1日以上遅れる可能性が判明した場合は、遅延が確定していなくても、その時点で生産管理責任者へ報告してください。報告時には、遅延の原因、予想される日数、現在の対応状況を伝えてください。

確認・報告のタイミングを具体化すると、担当者の感覚に依存せず、管理者が必要な時点で状況を把握しやすくなります。

3. 返事だけで理解できたと判断している

説明の後に「分かりました」と返事があると、管理者は、内容だけでなく、判断基準や実際の手順まで理解されたと考えることがあります。

しかし、「分かりました」という返事だけでは、どこまで理解できたかは確認できません。

返事には、次のような状態が含まれている可能性があります。

  • 説明を最後まで聞いた
  • 大まかな内容は理解した
  • 質問はないが、実際の手順までは整理できていない
  • その場で説明を止めたくないため、返事をした
  • 不明点はあるが、何を質問すればよいか分からない

これはベトナム人材に限った問題ではありません。説明する側と受ける側で知識や経験が異なる場面では、誰にでも起こり得ます。

重要な作業では、「分かりましたか」と質問する代わりに、相手が理解した内容を確認します。

  • 最初に何をするか説明してもらう
  • 異常が起きた場合の対応を説明してもらう
  • 判断に迷う例を示し、どのように行動するか確認する
  • 期限、報告先、完了条件を言い直してもらう
  • 必要に応じて、実際の操作や作業を一度実演してもらう

たとえば、「手順は分かりましたか」ではなく、次のように確認します。

作業開始から完了までの手順を、順番に説明してください。途中で規格外の製品を見つけた場合は、誰に何を報告しますか。

相手の言葉や実演で確認すると、理解できている部分と、追加説明が必要な部分を区別できます。

返事の有無ではなく、必要な判断と行動を再現できるかで理解度を確認することが重要です。

この確認は、相手を試したり責任を追及したりするためではありません。説明する側の伝え方や、手順書に不足している情報を見つけるために行います。

4. 判断してよい範囲と、承認が必要な範囲が曖昧

担当者へ仕事を任せても、どこまで本人の判断で進めてよいのかが共有されていないと、行動に差が出ます。

日本側では、「担当者なのだから、通常の範囲は自分で判断し、例外だけ報告してほしい」と考えている場合があります。

一方、担当者は、「指示されていない判断をすると責任を問われるかもしれない」「上司の承認を得てから進めるべきだ」と考え、作業を止める場合があります。

反対に、管理者へ確認してほしい内容まで担当者が自己判断で進め、後から「なぜ確認しなかったのか」という問題になることもあります。

たとえば、不良品への対応について、次のような指示だけでは判断範囲が分かりません。

不良品があれば、適切に処理してください。

この場合、担当者が隔離まで行ってよいのか、再加工や廃棄を決めてよいのか、顧客への連絡が必要なのかが不明です。

実際の社内規程、品質管理体制、承認権限に合わせて整理します。以下は役割分担を示すための例です。

検査担当者は、不良品を良品から隔離し、不良内容を記録してください。再加工、廃棄、特別採用の判断は行わず、品質責任者の承認を受けてください。顧客への連絡は営業責任者が行います。

修正後は、担当者が実施する処置、自己判断してはいけない事項、承認者、顧客対応の担当者が明確です。

役割を決める際は、次の点を確認します。

  • 担当者が自分で判断してよい範囲
  • 上司や責任者の承認が必要な事項
  • 作業を一時停止すべき条件
  • 他部署や顧客へ連絡する権限があるか
  • 誰の確認をもって作業完了とするか

責任を持たせることと、すべてを自己判断させることは同じではありません。判断権限、承認権限、完了条件を明確にすると、確認不足と過剰な確認の両方を減らしやすくなります。

5. 同じ言葉でも、想定している基準が違う

日本側とベトナム側が同じ言葉を使っていても、その言葉が表す基準まで一致しているとは限りません。

たとえば、「急ぎ」「問題ない」「きれいにする」「十分に確認する」「できるだけ対応する」といった表現です。

管理者が「今日中に急ぎで対応してほしい」と考えていても、担当者は「ほかの作業が終わった後、今日中に着手すればよい」と受け取る可能性があります。

また、「問題ありません」という報告も、次のように確認範囲が異なることがあります。

  • 外観を見た範囲では問題がない
  • 指定された一部の項目だけ確認した
  • 作業は完了したが、品質確認はまだ行っていない
  • 重大な問題はないが、小さな不具合は残っている

この状態で管理者が「すべての確認が完了し、合格基準を満たしている」と受け取ると、双方で認識が食い違います。

曖昧な言葉を使う場合は、その場で意味を補う必要があります。

製品Aを本日15時までに確認してください。寸法、外観、数量の3項目を確認し、すべて基準内であれば「確認完了」と報告してください。基準外の項目が1つでもある場合は、「問題なし」と報告せず、該当項目と数量を品質責任者へ伝えてください。

認識を合わせる際は、次の点を明確にします。

  • 「急ぎ」とは、いつまでに何を完了することか
  • 「確認」とは、どの項目をどの方法で見ることか
  • 「問題ない」と判断する基準は何か
  • 「完了」とは、作業終了・確認終了・承認終了のどの段階か
  • 一部に問題がある場合、どのように報告するか

同じ言葉を使っていることと、同じ基準で判断していることは別です。抽象的な表現を具体的な期限、確認項目、合格条件、報告方法へ置き換えることで、双方の認識を合わせやすくなります。

認識差が起きたときの確認手順

期待した結果にならなかったときは、本人の注意力や姿勢を問題にする前に、指示・理解・業務ルールのどこで認識が分かれたかを確認します。

次の順番で確認すると、原因と対策を整理しやすくなります。

  1. 実際に伝えた内容を確認する
    口頭や文書で何を指示し、何を省略していたかを確認します。
  2. 相手がどう理解したかを確認する
    責めるのではなく、どのような手順・基準・期限だと受け取ったかを説明してもらいます。
  3. 期待していた行動との差を特定する
    確認、判断、調整、報告、承認など、どの工程が共有されていなかったかを確認します。
  4. 原因を3つに分ける
    言葉の理解、業務知識、仕事の進め方のどこに不足があったかを整理します。
  5. 次回のルールとして残す
    期限、判断基準、報告条件、担当範囲、承認者を文書やチェックリストへ反映します。

たとえば、納期遅延の報告が遅かった場合に、「次から早く報告してください」とだけ伝えても、同じ問題が繰り返される可能性があります。

次回からは、「1日以上遅れる可能性が出た時点で、生産管理責任者へ原因・予想日数・対応状況を報告する」のように、行動できるルールへ置き換えます。

個別の注意で終わらせず、誰が担当しても同じ判断ができる形へ残すことで、同種の認識差を減らしやすくなります。

異常を発見した後の停止・隔離・報告・承認ルールを、実務事例から具体的に整理した内容は、「異常に気づいても報告されないのはなぜか|製造現場でロットアウトを防ぐ仕組み」で紹介しています。

文書化・翻訳で注意したいポイント

認識差を減らすうえで、文書化と翻訳は重要な役割を持ちます。

ただし、元の日本語が曖昧なままでは、ベトナム語に訳しても分かりやすい文書にはなりません。

翻訳前には、次の点を確認しておくと効果的です。

  • 読み手は誰か
  • その文書をどの場面で使うのか
  • 読み手に何をしてほしいのか
  • 禁止事項、確認事項、判断基準は明確か
  • 例外が起きた場合の対応が書かれているか

これらを整理したうえで翻訳・校閲を行うと、単に言葉を置き換えた文章ではなく、現場で使いやすい文書に近づきます。

読み手、目的、判断基準、用語、主語など、日本語原稿を翻訳前に見直す具体的な手順は、「翻訳前に原稿を整理すると、ベトナム語文書は伝わりやすくなる」で詳しく整理しています。

JV Worksでは、文書の目的、読み手、使用場面を確認し、日本語・ベトナム語の翻訳、校閲、AI翻訳チェックに対応しています。原稿だけでは判断できない基準や業務条件がある場合は、依頼者へ確認したうえで訳文へ反映します。

まとめ:認識差を個人の問題で終わらせず、仕事のルールへ反映する

日本企業とベトナム人材の間で起こる認識差は、日本語力だけでなく、業務知識や仕事の進め方が共有されていないことから生じる場合があります。

特に、次のような点は、双方が同じ認識を持っているか確認する必要があります。

  • 指示された作業と、期待されている行動の範囲
  • 確認・報告が必要になる条件とタイミング
  • 返事ではなく、実際の判断と手順を理解できているか
  • 本人が判断してよい範囲と、承認が必要な範囲
  • 「急ぎ」「問題なし」「完了」などの具体的な基準

期待した結果にならなかったときは、本人の姿勢だけを問題にせず、実際に伝えた内容、相手の理解、業務ルールのどこで認識が分かれたかを確認することが重要です。

確認できた内容は、口頭の注意で終わらせず、期限、判断基準、報告条件、担当範囲、承認者を文書やチェックリストへ反映します。

JV Worksでは、文書の目的、読み手、使用場面を確認し、日本語・ベトナム語の翻訳、校閲、AI翻訳チェックに対応します。原稿内の表現や条件に曖昧な点がある場合は、依頼者へ確認しながら訳文を整えます。

社内文書や作業手順書について、「言葉は通じているはずなのに、受け取り方や行動が分かれる」という場合は、原稿と使用状況を添えてご相談ください。

日越翻訳・校閲のご相談

ベトナム人材向けの社内文書、作業手順書、品質資料、教育資料などで、
「この表現で正しく伝わるか不安」という場合はご相談ください。

JV Worksでは、文書の目的、読み手、使用場面を踏まえて、
日本語・ベトナム語の翻訳、校閲、AI翻訳チェックに対応しています。

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